音楽芸術に全く無知蒙昧な日本のマスコミ

何処の国にもマスコミがあり、社会・政治・国際のみならず、芸術分野についても報道される場合が多い。例えば、ヨーロッパでは流石に西洋音楽の起源地域であることもあって音楽関連記事もよく掲載されている。

1970年代にフリージャズで有名な山下洋輔トリオが初めてのヨーロッパ遠征に赴いた。ユーゴスラビア(当時は共産圏だった)のリュブリアナで演奏した時は、そのアウトロー的コンセプトにも関わらず多大な音楽的衝撃を聴衆に与えて圧倒した。興奮した聴衆を抑えるために警察まで出動したのだが、翌日の新聞にその山下トリオの演奏についての記事が出た。音楽内容にまで踏み込んだ好意的な記事内容であり、当時メンバーだった坂田明氏(サックス奏者)は、音楽文化が民衆レベルまでしっかり根付いていることや、クラシックとは異なる音楽(新しい音楽)への意識の高さなどを実感し、「やはり日本とは違うと思った」と述べている。山下洋輔トリオのフリージャズは前述のようにアウトローな音楽ではあったが、ヨーロッパという地域はそれを一つの文化としてきちんと評価できる熟成された土壌があるのだ。

アメリカのニューヨークでもミュージカルやコンサートなどが開催されると、その記事が新聞に掲載される事は普通にあるし、テレビにもジャズ・ミュージシャンが登場して番組キャスターからインタビューを受けるなんてことも普通にある。(*1)

日本のマスコミではまずジャズという音楽自体が敬遠されており、滅多に記事にならないしテレビでも扱われる事は僅少である。マスコミにとっては「なんだか分からない音楽」なのだろう。特に関西などではジャズの話をしようものなら「ジャズておまえ…」とドン引きされて終わるのが当たり前なのである。関西人なら誰でも知っている吉本新喜劇のテーマ曲があるが、実はあれも古いジャズ曲(ポピュラー曲)の一つ (*2) だが、そんなことも民衆はもちろんマスコミ連中も知らないのである。ジャズどころか吉本新喜劇オリジナルの曲だと思っている人々がほとんどだろう。一般大衆ならいざ知らず、マスコミ連中がそうなのだから呆れたものである。これもまた日本の音楽文化の程度が低いを事を現す事実の一つだ。

2023年3月2日にサックス奏者・作曲家のウェイン・ショーターが逝去したが、筆者が知る限り新聞のWEB記事に小さく出たくらいで、テレビのニュースでは全く扱われなかった。ウェインはジャズ界の巨人であり、即興演奏に命をかけ、極めて素晴らしい独自の作曲をし、ジャズ界に良質の刺激を与え続けたまさに生ける伝説(リビングレジェンド)な人物だった。マスコミがよく言う俗な言い方をすれば「超・大物」である。グラミー賞の受賞も何度もある他に、数々の音楽賞の受賞歴がある。日本の現代音楽の巨匠・武満徹氏も絶賛していた。人間的にも素晴らしく、前述の武満徹氏をはじめ多くの音楽家から敬愛され、ウェインを慕う若いミュージシャンも多い。WEB記事では渡辺貞夫氏(サックス奏者・作曲家)のコメントも出ていたが、その程度である。繰り返すがテレビのニュースでは全く扱われていない。日本のテレビが扱うとしたら、ポップス界など一般大衆が知っている人物でなければ扱わないのが普通である。この程度なのだ、日本のマスコミは。


日本のマスコミが扱う音楽 (*3) はほぼ全部がポップス・歌謡曲などであり、そのずっと下にクラシック。ジャズに至ってはほぼ報道されない。民族音楽などはもっと無い。これが日本のマスコミの文化的な「程度」なのである。坂田氏が言うように、欧米のメディアとは大違いだ。かつて、ジャズピアニストの菊地雅章氏が「日本は文化果つる国だね」と吐露したのが良く分かる、というものだ。




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(*1)
後述するウェイン・ショーターもニュース系テレビ番組に普通に出演し、キャスターのインタビューを受けたり演奏したりしている。

(*2)
元は1918年にレオ・ウッドが作曲したジャズ曲『Somebody Stole My Gal』(誰かがあの娘を奪っていった)であり、吉本新喜劇で実際に使用されている演奏はトロンボーン奏者のピー・ウィー・ハント(Pee Wee Hunt)がデキシーランドジャズ・スタイルにアレンジしたヴァージョンなのである。

(*3)
「音楽」と書いたが、マスコミが書くのは歌手のゴシップを含む人物的動向であり、「音楽」そのものについては全く書かれないし報道されない。マスコミに「音楽を語る言葉」を持つ人間が居ないのである。マスコミには音楽文化が全く無い、ということだ。(蔑笑)
音楽についてマスコミが「書いた」としても、マスコミはポップスも元はジャズから生まれた音楽であることさえ知らない程無知な連中なのである。






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<2023年10月3日:追記>
マスコミは自分たちの音楽的無知を棚に上げて一般人の音楽的素養のなさを嗤う事もある。例えばオッフェンバックの有名な「天国と地獄」やムソルグスキー展覧会の絵(主に冒頭のプロムナード部分)」を一般人に聴かせて50人中2人しか答えられなかったなどと見下した放送をするのだが、彼らテレビ屋自身が音楽を語る言葉も持たないくせに一般人の無教養を笑う資格は無いのである。